【海外大学を目指したら人生こうなった Vol.2】押し寄せる情報と向き合う昨日から、「多様性」から自分を掘り出す今日まで

これまでatelier basiと深い関わりを持った人物のストーリーを聞いていく連載、題して『海外大学を目指したら人生こうなった』。第二弾で取り上げるのは、首都圏の高校からatelier basiに参加し、アメリカにある志望大学への進学を果たしたAさん。情報過多で自我を見失いやすい環境にどう立ち向かうか、アメリカの大学は本当に「多様性」があるのかなど、海外大学進学のリアルについて話を伺いました。


中学校3年生くらいから海外の大学に進むことに対して漠然としたイメージを持っていたAさんは、ヨーロッパ、オーストラリアの大学ではファウンデーションコース(注1)を経過しなければならないこと、生物学の研究においては米国が最先端であることを理由に、アメリカの大学という目標を定めた。その後、都内の進学校に通い、海外経験のある同級生と話したり、趣味であった洋書をよく読んで過ごした。生物に最も興味があったというAさんは、英語で書かれた生物の教科書を用いて勉強したり、都内の大学での生物分野の研究活動に取り組むなど、学校内外問わず自分の好きなことに対して積極的に取り組んでいた。都内の有名進学校などで理系分野で突出し、研究活動などをきっかけに海外の大学を目指す高校生は少なくないが、Aさんは動物シェルターでのボランティアなどを通して社会問題にも直面し、生物というテーマを多方面から見つめることができた。こうして妥協せず、多方面から好きなことを追求できた背景には、首都圏という機会に溢れた環境の影響があったと本人は素直に答えた。atelier basiの中で様々な受講生と接する中でも感じたことは、「課外活動の機会は都内の方が多く、学校が紹介してくれることも多い。それに対して、地方の子はよく自分から動いていた」という印象を持ったそうだ。


情報にあふれた環境に身を置きつつもAさんがatelier basiに応募した理由は、エッセイの執筆にまつわる不安だった。同じ高校から海外進学を目指す生徒が他にもいる中、忙しいときは1日に3本も書く受験期に、高校教員が全員のエッセイを添削することは不可能に近い。海外大進学塾に入るには莫大な費用がかかり、基本的にはエッセイの添削回数が事前に決められている。比較的受講費が安い有名進学塾には不透明な選抜プロセスが伴い、15−20人に限られた受講生徒のうちに選ばれるかどうか、受験間近である夏の後半まで分からないケースもある。また、同じ高校から既に入塾している生徒がいる、という理由で選抜されないこともリスクとして考えていた。


そんな状況の中、高校3年生の5月からatelier basiに参加したことでで不安を拭ただけでなく、想定以上にメンターとの距離と近く、受験期でメンタルが不安定になりやすいときは先輩と話すことで気持ちを切替られた。また、印象として進学塾ではエッセイが型にはめられやすい一方で、atelier basiでは自分が書きたいことをより自由に書くことができた、と感想を話してくれた。ただ、メンターが複数人いると時にはアドバイスが異なることもあるため、事実や自分の考えに一番近い形になるように心がけながら提案と向き合うことも大事だった。


両親のサポートは得られていたものの、学費が最大の懸念点だったというAさん。そこで、家計に負担をかけないよう奨学金への申請に力を入れ、atelier basiが独自に国内外の奨学金に関する情報をまとめたスプレッドシートなどを参考にしながら対策を練った。アメリカ国内の学生と同様、海外の高校から進学する学生に対してファイナンシャルエイド(注2)の制度を設けている大学も多くあるが、そのうちほとんどの大学が受験生の必要となる学費減免額を考慮した上で合否を決める(特に合格率の低い大学に多い)ことから、留学生はファイナンシャルエイドの申請に躊躇してしまう。どうしてもある大学に合格したいので、ファイナンシャルエイドを申請して合格する確率を下げたくない、という理由で申し込まず、後になって後悔するという可能性も十分にありえる。なので、家庭でどの程度学費を負担できるのか、経済的な理由により進学を断念せざるを得ない可能性を受け入れたうえでファイナンシャルエイドの申請を行うか、保護者とよく話し合う必要がある。また、大学出願前に孫正義育英財団や柳井正財団(予約型)などの合否状況によって、志望校の幅やファイナンシャルエイドの申請など受験の方針が大きく変わることもあるので、前もって準備を始めることは大切だ。「思っていたよりも奨学金の応募書類が大学への出願で忙しい時期に重なっていたので、早めに書類を完成させることが大変だった」と話すAさんは、その後柳井正財団より支援を受けることことが決まり、志望校にも合格することができた。


一年生の秋学期が終わった今、初めての米大学での生活をatelier basi代表のゆーたろーと

振り返ってもらった。


ゆーたろー:

今はどういうことを大学で勉強していますか


Aさん:

入学時と変わらず生物学の中でも発生生物学や分子生物学を勉強したいと思っていて、一年生の今はその専攻の必須科目を受講しています。通いたい研究室は検討している段階ですが、分子生物学や遺伝学、神経生物学にも手を出してみたい、と思っています。

日本では生物学の研究や教育自体はかなり進んでいるものの、複数の生物学の分野が分割されて、独立した形で進んでいるという印象です。比較すると、アメリカでは分野同士の関わりが多く、私の大学にも数学や古典的な実験を使った生物研究を取り扱ったりと、生物を軸にしつつ違う学問を同時で学べる授業がたくさんあり、分野横断的なアプローチが進んでいると思います。例えば、秋学期に受講した生物学の授業では生物物理学や応用数学を学び、生物学への数理的なアプローチの面白さを知ったので、その方向性でもより深堀りをしていきたいと思います。


ゆーたろー:

大学に来てみて、想像していたのとは違うことはあった?


Aさん:

入学前はそもそもイメージがあまり沸いていなかったのですが、よく言われる通り、勉強は確かに大変だと感じました。驚いたこととしては、大学が生徒の多様性をよくアピールしていても、実際に学生の間にはかなり分断しているところもあり、一方でとても均質的なところもあると感じています。

確かに人種や宗教の違いによる多様性は日本よりアメリカの方が顕著で、それは授業の中での生徒の発言から感じたりもしています。しかし、受験において学力試験などの点数だけを基準とせず、その人の性質や大学との相性などもかなり考慮されるため、どうしても似たような生徒が集まってしまいます。

例えば自分の通っている大学には、傾向としては常に周りより上にいたいという人、いわゆるコンペティティブ(競争的)な人が多く、しかも大半は少し不思議に思うくらい個人主義でマイペースだと実感しました。例えば私は寮生活をしていて、ランダムに決められたルームメイトと部屋を共有しているのですが、時間が経つにつれて、お互いが自己中心的になってしまい、自分の好みを押し通そうとしたあまりにうまくいかないことも多々ありました。


ゆーたろー:

なるほど。それを踏まえて、アメリカの大学に進学する上で、持っておくといいマインドセットなどはあると思いますか?


Aさん:

(生徒数が学年で1000人以上いる)アメリカの大学で活躍するには、自らとても積極的に動く力が必要と感じました。例えば研究であったり、生活面で大変な状況に直面したときには誰かがサポートしてくれるとは限らないので、自発的に問題解決に向けて動けることは大事だと思います。また、いわゆる「トップ大学」には客観的に見て優秀な人が多く、インポスターシンドローム(注3)になりやすいので、それに負けず、周りと比較しない強いメンタルを持っている人がいいと思います。


ゆーたろー:

最後に、海外進学を考えている高校生にアドバイスをお願いします!


Aさん:

まずは、人とのつながりを大切にすること。学校の先生や友達、海外大学の先輩などと仲良くすることは大事だということを伝えたいです。また、興味分野が見つからないという声をよく聞きますが、いろんなことを試す中で少しでも興味がなくなったら身を引き、次のアイデアに移ることで、いずれか自分が本当に好きなことが見つかると思います。なので、早め早めに色んなテーマと向き合い始めてみてほしいです。


現在はatelier basiのメンターを務め、詳しくない分野で頑張っている高校生との交流からインスピレーションを受けているというAさん。学期中の週末は街に出かけ、美術館や飲食店巡りを楽しんでいる彼女に今年の抱負を聞くと、「芸術ともっと触れ合うことで、心の余裕を保ちたい」と話してくれた。メンターとして他人のクリエイティビティを育むうえでは、自分の内面的な成長や未知体との遭遇も非常に大事だということは、私たちが共通して感じているようだ。


注1)ファウンデーションコース:日本の高校卒業資格のみでは学部受験資格に足りないため、基本的には日本人がイギリスの大学に所属するには1年間の準備コースを取らなければなりません(IB, A-levelsなどを取った人、SATの条件をクリアしている人などは必ずしもこれに当たりません)。

注2)ファイナンシャルエイド:過程の収入・資産に応じた学費減免・免除。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

注3)インポスターシンドローム:仕事や学業などにおいて成功し、客観的な評価をしっかり得られているのにもかかわらず、自分自身を過小評価してしまう心理状態のことを指す。

ばし日和☀️

atelier basi の仲間たちから海外大学への進学を夢見るすべての学生へ、受験や団体活動にまつわる最新情報をお届けします!

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